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May 30, 2004

「純粋なるもの」感想

今日、学生達数名と一緒に、イスラエルのドキュメンタリーフィルム「純粋なるもの-なぜ宗教は女性を「不浄」とするのか?(2002)」(アナット・ズリア監督)を見に行きました。去年山形で行われた「山形国際ドキュメンタリー映画祭」で上映されたそうです。今回の上映主催者は、ドキュメンタリー・フィルム・ライブラリーという団体でした。
その内容と感想を簡単に書いておきたいと思います(この映画の上映を教えてくれたM君に感謝)。

この作品は、副題から想像がつくように、女性、特に生理(不正出血なども含む)を「ケガレ」とするユダヤ教の律法を問題にした1時間ほどのフィルムでした。インタビューの対象としては、最近離婚した女性、長年連れ添った夫婦、そして婚約・新婚の女性などでした。

女性の月経を不浄を見なす習慣は世界中にあるわけですが(日本も例外ではありませんが、民俗学が教えるように地域偏差が激しいです)、ユダヤ教の場合、トーラー(トーラーとは、いわゆる「旧約聖書」中で最初の五つの書物、即ち「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」のこと)の一つである「レビ記」(このレビ記というのは、いわば「べからず集」といった色彩が強いです)に、その規定が事細かく書いており、それが今も結構遵守されているという問題があります。ちょっと列挙してみますと、例えばレビ記の15章19-30節には生理や不正出血の時女性やそれに触れるものが全て穢れる、などと書いていますし、同じくレビ記の12章を読むと男子を産んだ時より、女子を産んだ時の方が二倍穢れていて二倍の期間籠もらなければいけない、なんて書いてあります(ご興味のある方はお読みください)。余談ですが、イエスの奇跡譚でも、「長血を患う女」がイエスの衣に触れただけで癒される、というのがありますが(マルコ5:25-34)、ここで重要なのは、イエスが「血のケガレ」を恐れず女性信者と暖かい交流を持ったという点です。ここが今までのユダヤ教の「ラビ(先生とも訳される。ユダヤ教の宗教的指導者)」とは大違いだったという解釈が現在の神学ではなされています。

では、現在ではどうなっているか、というのが今回見た映画の主題です。結論から言うと、まだこの「律法」の縛りは結構厳しく、夫婦の生活を律しているのだということです。
月経が終わって7日後、特に既婚女性は「ミクヴェMiqveh」と呼ばれる儀式用の浴槽(映画で出てきたのは階段状の水槽でした)に全身を浸して清まらなければ、夫や様々なものに触れてもダメなのです(独身の女性の生理も不浄視されているでしょうが、どうも既婚女性ほどの厳しい掟はなさそうでした。というのも、インタビューの中で、婚約中の女性が「結婚した途端穢れているからミクヴェをしろなんて言われても・・・」と不満を口にしていたことから、それが窺われます)。つまり、このミクヴェは「通常生活」に戻る為の儀礼と言えるわけで、非常に重要視されているようです(全ての化粧を落として浴槽につかるシーンが印象的でした)。この通常生活、という言葉には夫婦の性生活が非常に大きなウェイトを占めています。インタビューの中には、数十年連れ添った夫婦のものがありましたが、彼等はある意味あけすけに「ミクヴェの(終わった)夜は特別な夜だもんね」という言い方をしていました。つまり「禁欲」が解ける夜なわけです(「イエス・ノー枕」より凄いな、と思いました)。

この儀式は、やはり既婚女性の大きな問題のようです。独身女性は、基本的に男性との接触が日常においてないので「触られると穢れる」ということがありませんが、夫婦生活はそうもいきません。ミクヴェを経ないといつまで経っても妻の身体は穢れていて夫は触れないわけです。ですから、わざとミクヴェを拒否する=性役割sex roleの拒否(夫婦の性生活の拒否)=離婚の充分な理由になる(戒律違反)、ということまでこの映画では言及されていました。そしてもっと重要なのは、このミクヴェの儀礼は、しなければ「罪悪感」が植え付けられる、という構造になっていることです。

フィルムは主にイスラエルを写していましたが、アメリカのユダヤ社会についての言及もありました。アメリカに一時住んでいて、イスラエルに移民してきた人と思われる女性が言うには、「アメリカにいる時は、ミクヴェは公衆浴場みたいなもので、順番待ちをしている間読書をしたり編み物したりおしゃべりしたりする、いわば女性の社交場みたいなものだったのに、イスラエルのは機能一辺倒で2分間水につかって終わり。まるでティーバッグになったような気分だわ(笑)」なんて言っていました。このように地域によってもミクヴェの持つ意味合いは違うようですが、ともかく監督が言うように「ミクヴェの掟に従うことで男性中心の社会になるように意図的にコントロールされている」のであろう、と思わざるを得ません。

このようなフィルムが撮影されたこと自体、この習慣に疑問を持つ人が一定数現れた証拠でしょうが、その道のりは厳しそうです。一緒に見に行った学生達に聞いても、「うーん」と唸ってしまって言葉が出てきません。でもそれはある意味当然でしょう。「他文化にどれだけズカズカと入り込んで良いのか」というのは、文化人類学の知見が教える通り、非常に大きな問題でありつづけています。「外」から見て、いかに野蛮な習慣に思えても、その文化では一定の意味がある、という文化相対主義を取るなら、なかなかこのような問題には踏み込んでいけません。昔、僕が授業で取り上げた「女性性器切除(FGM)」の習慣も同様の問題に晒されています(こっちの方が物理的な暴力だから反対しやすいと言えばしやすいのですが)。ですから、このような非常に問題提起的な映画を見たあと、安直な結論は出してはいけないのだと思います。逃げを打つようですが、もっと自分の中で熟成させたい問題です。ちょっと中途半端ですが、今日はここまで。

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Comments

BENKYO SHITE HARI MAN'NA----(^^)
TAIHEN SANKO NI NARU EIGA HYOU DESHITA.
MA- NAN'TO IU KA, MOTTO TEKITO- NI UN'EI SARETE HOSHI'I MONO DESUNE.
NIHON TO AMERICA NO CATHOLIC SHINJA GA KO-DAKUSAN TO IU HANASHI MO AMARI KIKANAI NODE.
WATASHI WA NEW AGE YORI KIRISUTOKYOU NO HOU GA SYMPATHY ARU KEDO, YAPPARI SEISHO WA SEKAI SAIDAI NO "TONDEMO BON" DAYONE!!(^^)

Posted by: KOIKE | May 31, 2004 at 12:31 PM

小池君へ

コメントありがとう。今僕は『トンデモ本の世界T』を電車の中で読んでいます(笑)。

「勉強してはりまんなあ」と言ってくださってますが、この情報を教えてくれたのは学生なのですよ。僕より学生を誉めてあげてください(笑)。
カトリックは本当にオギノ式以外で避妊していないのか、と言う問題はなかなか立ち入ることが出来ない問題ですが、映画のミクヴェも実は監督によると3分の1くらいはしていないかも、と言っていました。

さて、小池君の文字化け問題ですが、恐らくこのココログは著しくwindows寄りの仕様になっていて、推奨環境もIEの6以上とか、ネスケの7以上とかなのだそうです。

http://help.cocolog-nifty.com/help/2004/03/q__15.html

じつは、僕の自宅のパソコンはIEの5なのですが、それでこのブログを見ると文字化けするし、スタイルが崩れまくります。他のブログでもいくつかそういう事例があって、どうもブログは面白いけど、古くからのユーザーやマックユーザーのことを考えていないようですね。
ニフティって、いつも中途半端。良いところまで行くけど、詰めが甘いとか。昔、僕がホームページ立て挙げた時も、ニフティのホームページ上で色々登録していたら、いきなり強制終了になって、なんじゃらほいと問い合わせをしたら「当社のホームページとIEは相性が悪いからパッチをダウンロードしてくれ」という返事が来て呆れたことがありました。

Posted by: 川瀬貴也 | May 31, 2004 at 01:31 PM

長い長すぎるぞ。読んで疲れたぞ。

ちなみに、マシンのパワーとOSが許す限り、ブラウザ(特にIEを使うなら)最新のバージョンにしたほうが、セキュリティ的に無難です。一般的に。
ブラウザごとの対応って、ものすごくコストがかかるんだよね。と少し仕事よりの発言。

Posted by: xasimoto(やすやす) | May 31, 2004 at 11:04 PM

>長い長すぎるぞ。読んで疲れたぞ。

悪い悪い。でも、これくらい書かないと「学者っぽくない」だろ?(笑)原稿用紙だと6枚弱といったところでしょうかね、今回のは。ブログに換えたのは、こういう長いのを書く為でもあるんだから、許してね。

コンピュータ業界が、過去の技術をどんどんある意味否定していかないと先に進めない、というのは判るけど、ちょっとun-user-friendlyだよね。

Posted by: 川瀬貴也 | June 01, 2004 at 12:47 PM

こんにちわ。

昨日、キリスト教に関する授業があった関係で
聖書のレビ記を読みました。

レビ記というのは規律に関する記述等が
多いと聞いて、読んでみたのですが…。

いやはや、レビ記の内容ってすごいですよね~(笑)
18章かな?「いとうべき生関係」の中に
男性と男性はダメって書いてあるのは
宗教的にそういうのってあるんだなって
なんとなくわかる気がします…。
でも、動物もダメって書いてあるんですよね~^^;;。
それって…と一瞬、動きが止まってしまいました(笑)

でわ。

Posted by: 越後屋 | June 02, 2004 at 09:39 PM

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