愛される理由
6月3日付の日記で、森薫さんの『エマ』というメイドさんマンガにはまっていることをカミングアウト(笑)しましたが、それに引きつけて、ちょっと思いついたことをメモしておこうと思います。
書店のコミックコーナーや、ゲームソフト売り場に行くと目立つのが、いわゆる「メイドさん」やら「妹」という設定の作品群です。コスプレのネタとしてメイドは既にメジャーなものですし(東急ハンズのパーティーグッズコーナーとかにもあるでしょう)、「妹」という設定は、マンガでもいわゆるギャルゲー(エロ含む)でも山のように利用されています。
オタクの世界では、そういう設定に萌えることを「属性」と呼ぶようですが、「メイドさん」と「妹」という設定には、必ず、その相手たる「ご主人様」と「お兄ちゃん」がいるわけです。当たり前ですが。そして消費者は当然その「ご主人様」や「お兄ちゃん」に感情移入してそのマンガなりゲームなりを愉しんでいるのだと思います(メイドや妹にシンクロする人もいるでしょうが、それはとりあえず措きます。調教するご主人様と調教されるメイドに同時に感情移入する、というような離れ業だって、その筋の人は出来るでしょうけど)。
で、このことをつらつら考えるに、「ご主人様」とか「お兄ちゃん」というのは、言い方は悪いですが、本人の努力や素質とは余り関係なく最初から優位に立てる、言い換えれば「愛される」可能性がとりあえずはある、という美味しいポジションです。このように「最初から優位に立つ」設定が好まれる、というのは、非常にオタクのメンタリティを徴候的に現しているのではないか、と思ったわけです。
「努力せずに愛される」という体験は、精神分析っぽくいえば母親との第一次的なアタッチメントにその起源が求められるでしょう。でも、単にマザコンに回帰するのではなく、優位な立場のご主人様やお兄ちゃんへと自分自身を変換する、ということが行われているということになるのかな・・・などととりとめもなく考えてしまいました。
さて、少年マンガにありがちですが、「黒一点」というか、女の子に囲まれ、彼女たちがみんな主人公の少年のことが好き、という設定は手を換え品を換え今までにいくらでも描かれてきました(少女マンガにおいても、主人公の女の子が周りの美形全員から好意を寄せられる、という設定が山ほどあるのはご存じの通りですが)。
複数の「メイド」に囲まれるだとか、山ほど色んなバリエーションの「妹」に囲まれるとか、そういうオタク好みの設定も、これの一つのバリエーションと見なせるのかも知れませんが、東浩紀君が『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)で言うように、その設定の微細な差異こそが大事なんだ(「萌え」のポイントこそが大事で、物語は二の次)、ということになると、やはりちょっと違ってくると思います。「俺はメイドや妹との緩い関係よりも、猫耳が良いのだ」とかいわれると僕の想定外ですが(笑)、僕が勝手にオタクの萌え属性の最大勢力の一つと見なしている(笑)「メイド」や「妹」は、どうしてもその陰に弱々しいもの(逆に言えば強くあらねばならない、という脅迫的な「男の子」のあり方)を感じてしまいます。まあ、ポルノグラフィそのものが、男の不安から生じているのだ、という言い方もできるでしょうけど。
こんな風に分析すると気を悪くするオタク諸兄がいるであろう事は予想できますが、イデオロギー分析をついついしてしまうのは学者の性(さが)です。お許しを。こんなことを言っている僕も、その濃さはともかくとして、オタク文化とは無縁な人間では勿論ありません。
中途半端ですが、とりあえずこうしてメモしておきます。
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Comments
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テキスト貼付け初挑戦。
してみると、スチュワーデスや看護婦ってのも「無条件のサービスを奉仕してくれる人」でありますな。「女医さん」ってのもあるかもしれなけど、数としては少ない。権威性がまとわりついているからでしょうな。
Posted by: KOIKE | June 07, 2004 06:46 PM
その権威性を汚すことに・・・という風に続きますわな、その場合。ポルノって、そういう構造だし。
スチュワーデスやナースは、その制服自体にも人気の秘訣があるのでしょうけど(笑)、
誰にでも親切にする職業
→俺にだけ特別に親切にしてくれれば非常に満足
という流れがあるのかも。
僕のこのエッセイは、「保護欲」と「征服欲」を都合良く満たす対象として「メイド」や「妹」が選択されているんではないか、という実も蓋もない話なのですが。
Posted by: 川瀬貴也 | June 07, 2004 07:00 PM