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September 16, 2004

現実に振り回される

今朝の朝刊を見ると、ちょっと不穏なニュースが目に飛び込んできた。小泉首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」が、これまでの国防基本方針を見直すようにとの報告書の骨子をまとめたとのこと。
その報告書の要点は「日米関係(同盟)のさらなる重視」「自衛隊の海外活動の積極化」「武器輸出3原則の緩和(事実上の撤廃)」などのようだ。あとは仮想敵国としての北朝鮮、中国への警戒感の表明もあるようだ。

首相の私的な諮問機関なんて、次に行う政策の理屈を作るのがお仕事なのだろうから、あの小泉首相の下での諮問機関でこのようなものが出されることには、さして驚きはないのだが、結構、この方向転換は見過ごせないものを持っている。特に、国連中心主義から日米同盟中心主義への転換と、武器輸出に関する点で今までの方針とは真っ向から対立するからだ。今までの方針が素晴らしいものだったかはさておき、この方向転換には、どうしても危険な「臭い」を感じてしまう。
簡単に言うと「現実に振り回される日本」というのが、まさにこの方針に現れているからだ。
国連が機能不全だ、結局アメリカには誰も逆らえないのだから、アメリカとの関係を最重要視していきましょう。これはこれで確かに現実的だろうし、合理的な選択だろう。しかし、これは理念もへったくれもない。アメリカが一番世界で強いから追随しましょう、という機会主義に過ぎない。その時は合理的な選択のつもりでも、長い目で見れば不合理な選択、というのもあるのだ。こんな「機会主義」を国是とするような国が「国連常任理事国」に立候補して良いのだろうか(僕個人としては、国連に相当の資金を提供している日本は、その中でそれなりの地位を要求してもしかるべきだと思うが、軍事面での貢献などは別にしなくても良いじゃないか、という考えである。教育やら医療やら文化財保護やら、するべき事は山のようにあるのだから)。

実は、以前このブログで引用したのだが、もう一度、片岡義男氏の「美しい」とさえ思える言葉を引用して、僕の代弁としたい。

日本は憲法を改正して現実のあとを追う国になる。新たな現実は次々に立ちあらわれる。だから日本は次々に現実を追う国になる。次々に現実を追えば、現実に引きずられる国になるにきまっている。憲法を改正した日本は、現実に引きずりまわされる国となる。

諮問機関のお歴々は判っているのだろうか。
戦後間もない頃、当時の吉田茂首相は、東大総長の南原繁を「曲学阿世の徒」と非難したことがあるが、これはもちろん吉田首相の言葉の使い方が間違い。南原氏はそれとは正反対だったのだから。
この諮問機関の学者の面々は、後世に正しい意味で「曲学阿世」と呼ばれることを覚悟しているのだろうか。

追記:僕のこのブログにトラックバックしてくださった「glocal ethos」で、僕の言いたいことがほぼ論じ尽くされていますので、改めてこちらからもトラックバックしたいと思います。

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Comments

プロフィールの写真がかわいらしい(失礼!)ものからダンディなものに変わってて衝撃を受けました。

私も「過去を向いたままジェット噴射で未来へ進む」という形の憲法改正というのは非常に危険だと思います。(このたとえは外交史の先生の受け売りなのですが)
結局のところ、憲法というのは国の理念を表しているわけで、それに代わる理念・ヴィジョンが示されなければ、改正を考えることさえすべきではないと思います。
「憲法の出自・正統性批判」「現実に合わせよという批判」いろいろありますが、しかしそれよりも、理念なき憲法によって現実に振り回される、あるいは暴走を制御できない恐怖のほうが大きな問題に思えます。
それは、前に川瀬さんが触れていた「リアリズムという名の現実迎合主義」にもつながります。

今回、日本の常任理事国入り問題について書いた記事をTBさせていただこうと思います。
(古い記事で恐縮なのですが)
あと、おすすめblog欄に入れたことを事後ではありますが報告させていただきます。

Posted by: 真鶴さら | September 21, 2004 at 09:28 AM

真鶴様

TBありがとうございました。あと「おすすめblog」欄に加えていただき光栄です。これもありがとうございました(僕の方も、「お気に入りブログ」欄に入れさせていただきます)。

さて、TB先の記事も、先程拝見しました。僕も、真鶴さんのおっしゃることに同感です。まさに「常任理事国になって、何がしたいの?」という疑問が全てですよね。日本の国威を海外に輝かせるのだ、等という大時代的なノリにはもちろんついて行けませんし、常任理事国になるって事は、簡単に言えば「言葉の上でだけでも、アメリカとタイマンを張ることがあり得る」と言うことなのを、政府も外務省も理解しているのでしょうか?同盟だなんて言っても、いざとなれば「それは違う」と言える勇気があるかどうか(「同盟」云々で言うなら、イギリスやフランスは、第二次大戦の時からのアメリカの「同盟国」であるんですから)。
僕も、足りない脳みそで「何が一番現実的で、日本の国益となるのか」ということを考えて、「非軍事的な部門で貢献すること」という結論になったのです。もちろん僕だって世界中から軍隊がなくなって平和な世の中が来ればいいなあ、とは思いますが、そんなに簡単なものではないことも判っています。でも、日本は、幸いなことに、憲法のおかげで(ここが大事)、そんなに軍事的なことをしなくても良い「ユニーク」な地位を一応国際的に認められているはずです。その「ユニークさ」をとことん「利用」することが国益に繋がると思っています。

>「過去を向いたままジェット噴射で未来へ進む」

というのは、面白い喩えですね。玉砕覚悟ってわけですねえ、こりゃ(笑)。

追伸:写真は気まぐれで替えてみました。携帯で自分で撮ったら、なかなか面白く写っていたので。

Posted by: 川瀬 of Joytoy | September 21, 2004 at 12:18 PM

リンクありがとうございます。(遅れてすみません)

>でも、日本は、幸いなことに、憲法のおかげで(ここが大事)、そんなに軍事的なことをしなくても良い「ユニーク」な地位を一応国際的に認められているはずです。その「ユニークさ」をとことん「利用」することが国益に繋がると思っています。

これを読んで、ぽんと膝を叩く思いです。
私はあまり「国益」とか「日本の誇り」だということは考えないのですが、日本が「普通の国」でないからこそ可能になる貢献だとか行動っていうのがあって、それによって得られる(無自覚な)国益や名誉というのは実は無視できないくらい大きいんじゃないかと思います。
「日本文化・歴史の独自性、優位性」を主張する人たちに限って、日本が「普通の国」でないことによる独自性、あるいはそれに伴うアドバンテージについて無頓着なのは素朴に不思議だったりします。

Posted by: 真鶴さら | September 24, 2004 at 09:02 AM

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