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April 11, 2005

中国の反日デモ雑感

今、中国では反日デモが盛り上がっています。どれくらい続くかは判りませんけど、多くの日本人は、「なぜこれほどまでに」と驚いたと思います。かくいう僕も驚いています。竹島の時は、日本が喧嘩を売ったようなものだし、という思いもありましたが、今回はそういう直接的な原因が見えづらいものでしたから(国連の安全保障理事会の常任理事国になることの可否や、アサヒビールに関する噂などが一応原因とされていますが、別のことでも起こりえたのでは、と思います)。

僕の感想は単純なもので、「中国の(一部の)反応は行きすぎ、でも、その遠因を営々と作ってきた日本にも非がある」というものです。喧嘩両成敗みたいな感じで、面白くも何ともないのですが、一方的に「中国人が悪い」とか「日本人が悪い」という単純なものの見方、特に中国人蔑視をオブラートで包んだようなものの言い方には与することはできません(ブログを巡回して、毎度のことながらそのような物言いが多いのに、ちょっとがっかりですが)。

日本人が、長年「戦争を反省しています」と口先だけで反省を述べて、却って反省していないことを身振りなどのノン・バーバル(非言語的)コミュニケーションで向こうに伝えてきたことについては、内田樹先生がブログで書いており、僕もその意見におおむね賛成です。

僕が内田先生のエントリを読んで思い出したのは、ベイトソンという学者の「ダブル・バインド」理論でした。この理論は、統合失調症(分裂病)のコミュニケーションのありかたを考察した際に出てきたもので、簡単にいうと、相矛盾するような命令を同時に出されて、にっちもさっちもいかなくなるような状態を「ダブル・バインド」と呼びます。例えば、母親が子どもに怒った顔で「こっちにいらっしゃい!!」と命令したとします。子どもは母親の言葉通りに動きたいのですが、表情を読むと「こちらへ来るな」「お前なんか嫌いだ」というメタ・メッセージが読み取れてしまい、硬直して動けなくなってしまいます。このように、口によるメッセージと、口によらないメッセージの意味内容が乖離した状態に晒され続けると、その者は「関係性」自体をどのように構築して良いかが把握できなくなり、言葉の隠れた意味に執着したり(これがいわゆる妄想です)、文字通りの意味にしか反応できず空気が読めなくなったり、コミュニケーションそのものから逃避したりすると、ベイトソンは推測しました。

内田先生は、戦争の反省を口にする政府首脳の「棒読みさ加減」を強調していますが、僕はそれもさることながら、言葉の面でも、日本政府は「戦前の反省」と、「あの戦争(植民地支配)のどこが悪かったんだよ」と、相矛盾する(筈)のメッセージを戦後ずっと垂れ流しており、それが澱のように中国や韓国の人の脳裏に沈殿され、あのような過剰とも見える反応を生んでいるのではないか、と思います。要するに、信用してコミュニケーションを取ることのできない国なわけです、向こうにとって日本という国は。

今回のデモ騒動は、ちょっと大げさにいうと、ポストコロニアルな問題の一つだと思います。
日本企業が中国人労働者を雇ってやっている、というような意識は未だ根強いものがありますし、そのような意識は、繰り返しになりますが、中国人労働者にじわじわと「反日」の種を植え付けてはいなかったか、ちょっと考えたいところです。

所謂排日思想なるものは日本の主我的帝国主義の影ではありませぬか。影を悪(にく)む前に先づ自身を省みる必要がありませう。「国威を海外に輝かす」とか「大に版図を弘める」とか「世界を統一する」とかいふやうなことを日本の理想とし主義として進んでいつた結果が隣近所、皆排日となつて今日の八方塞を招いたのであります。(中略)所謂「日本主義」で傍若無人に振舞へばいかで反動を起こさで止みませう。(中略)朝鮮などに来て居るものは婦女子に到るまで威張ることを知て愛することを知りません。取り立てることを知て与へることを知りません。(中略)而して其根本原因は帝国主義の中毒であります。(中略)其れはいくら総督府が善政を布かうとしてもだめなのであります。又いくら総督府を改革したところでだめなのであります。日本人の素質が変らねばならんのであります。(鈴木高志「朝鮮の事変について」、『福音新報』一九一九年五月八・一五日)

上記の言葉は、1919年の三・一独立運動の直後に、朝鮮に住んでいたある日本人牧師が述べた言葉ですが、今回の騒動で、再びこの言葉を思い出しました(昔、論文に引用したことがあるので、覚えていたのです)。
少し尻切れとんぼですが。

追記:大学時代の旧友(中国史専攻)が、反日と反中の悪循環について触れていましたので、TB。ホント、この悪循環をどうにかしないと。

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Comments

小埜田@体調最悪・気分も最悪です。

ですけど、先生のエントリを見て、少しだけ良くなりました。激しく同意です。(なんて書くと、病んでるサヨクみたいだけど・笑)

そして、ウチダ節ですが、今回は特に痺れました。こんな格好いい批評があるとは、と改めて感動&敬服してしまい、あちこちに宣伝してます。

しかし、ネット上の雰囲気は芳しくありませんね。ウチダ先生のところに寄せられたコメントも、決していただけないものが少なくないですし、mixiの戦争反対コミュも結構悲惨です。

はぁ…と、出るのはため息ばかりです。

Posted by: 小埜田 | April 12, 2005 at 12:14 AM

はじめて訪れてみました。
デモの取り締まりに関しては当然
中国政府の責任、ということですが、
結局はコミュニケーション不足なんでしょうね。

話合いのきっかけになればいい、と
思うのですが。
TBさしていただきますね。

Posted by: 虎哲 | April 12, 2005 at 10:29 PM

小埜田君
大丈夫ですか?僕以上に、君は体の線が細いのだから、無理はしないように。

>mixiの戦争反対コミュも結構悲惨です

そうなんですよね。困ったもんです。

虎哲様、初めまして。コメントとTBありがとうございます。

>結局はコミュニケーション不足なんでしょうね。

僕もそう思います。デモに参加して雄叫びを上げている人も、日本で「だから中国人は・・・」と言っている人、双方とも実際の日本人、もしくは中国人には会ったことすらほとんどない人なのでは、と思います。イメージだけが脳内で肥大化して、架空の敵を作り上げて、攻撃しているように思えます。

Posted by: 川瀬 | April 12, 2005 at 10:44 PM

こんばんは。
「中国が反日なのが悪い」という、近代日本仏教と中国仏教との関係を日々考えている私にとっては、とても慣れ親しんだフレーズに、至る所でお目にかかる毎日です。
ニュースバリューというのは、「絵になる」ことがほとんどすべてであって、お互いに理解しようと努めて話し合う姿、行き過ぎをなだめる声などは「絵にならない」ので報道もされず、見えにくいだけなのだというのが、私の思うところです。
それにしても、殴打されたという日本人留学生が、命に別状がなくてよかったです。でも彼はずっと中国に対する悪感情から抜けられないのでしょうね。

Posted by: tsujimuda | April 14, 2005 at 11:15 PM

tsujimudaさん

>行き過ぎをなだめる声などは「絵にならない」ので報道もされず、見えにくいだけなのだというのが、私の思うところです。

そうなんですよね。実は、中国国内でも、全くデモのことを知らない地域もあるようで・・・。

今朝の朝日新聞で、山室信一先生が、「デモは中国の国内格差のガス抜き」とかいっている政治家をしっかり批判していて、我が意を得たりと思いました。

Posted by: 川瀬 | April 15, 2005 at 12:29 AM

小泉は確信犯なのでしょうか?
郵政、道路民営化で国内の自民党の財源を断ち、ODA関連で日中、日韓のパイプを断ち、国外でも自民党の財源を切る、だとしたら彼はヒトラー並みのスケールのでかい政治家だと褒めてやらなきゃいけないのでしょうが。
でも今回、日中どちらの青年たちも、本当に戦争になった場合の悲惨、について想像し得ていないのが無惨としか言いようがないです。周恩来も田中角栄もはるかかなたの人なのですね。
ただ一点、文化大革命をリアルタイムで経験したものとしては中国の党中央の権力闘争(上海派と北京派)の側面も見逃してはならない、と思いますが。

Posted by: natunohi69 | April 17, 2005 at 06:14 PM

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