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August 11, 2007

生き残った者と語り継ぐ者―「夕凪の街桜の国」

今日、妻と二人で「夕凪の街桜の国」を見に行きました。これはこうの史代先生のマンガが原作で、以前このブログでもこの作品(文句なしに大傑作)を取り上げましたが、映画化されたということで見に行ったわけです。

今から簡単な感想を書きたいと思いますが、基本的にネタバレですので、白紙状態でこの映画をご覧になりたい方は以下を読まないでください

まず、この映画は、大変原作に忠実に作られています。原作がそれだけ素晴らしかったということでもあるでしょうが、原作のマンガ、構成も大変カッチリとできていますので、動かしづらかったのだと思います。
はじめに「夕凪の街」編がはじまります。戦後13年(昭和33年)の広島の「原爆スラム」で暮らす平野皆実(みなみ)という女性が主人公で、演じるのは麻生久美子さん。僕のツボの「薄幸系美女」の一人ですね(僕は他にこの系統としては、木村多江様とか石田ゆり子様を偏愛しています)。彼女は母と二人暮らしで、原爆で父と妹を亡くしたという設定です(原作では姉と妹が原爆で死ぬのですが、映画では二人を合わせて妹一人で代弁させています)。その妹に何もしてやれなかったということが彼女のトラウマとなり「何故自分は生き残ってしまったのか」という感情に苛まれています。前にも書いたのですが、戦争や大災害の被害者には、「何故あの人が死んで自分が生き残ったのか」というまさに不条理としか思えない事態を目の当たりにして、生き残ってしまったこと自体に罪悪感を抱くということが多々報告されています(一番このトラウマの存在を見せつけたのは、ナチスのホロコーストの生き残りです)。皆実もまさにこの感情に囚われているわけです。彼女はその感情を「お前の住む世界はここではないと誰かの声がする」と表現しています。それ故、会社の同僚に告白され、彼女もそれを受け入れようとしつつも、自分がそのように幸せになっても良いのかという自責の念が離れないわけです。この作品(マンガも原作も)では、その同僚が「生きとってくれてありがとう」と彼女の存在を丸ごと祝福する言葉を投げかけて、彼女のトラウマは一旦解除されるのですが、本当の悲劇はその後に起きます。というのは、原爆症が彼女の体を徐々にむしばんでいたからです。そして、僕が原作で最も戦慄し、映画でも絶対削って欲しくないと思っていた台詞が入ります。

嬉しい?十年経ったけど、原爆を落とした人はわたしを見て「やった、また一人殺せた」とちゃんと思うてくれとる?(映画は微妙に「13年後」としていますので、この部分も「13年」となっていましたが)

彼女はそのまま亡くなります。しかし、その直後に原作同様「このお話はまだ終わりません。何度夕凪が終わっても終わっていません」と、現代の「語り継ぐ者達」の物語、すなわち「桜の国」編に突入します(この映画はいわば二部構成を取っています)。

この「桜の国」の主人公は七波(田中麗奈)。「夕凪の街」のヒロイン皆実の姪という設定です。彼女は定年退職した父(堺正章)がこのところやたら長距離電話をしたり、ふらっと数日いなくなることを怪しんで、一度尾行してみることにします。その道中で偶然小学校時代の同級生東子(中越典子)と出会い、そのまま二人で尾行することになったのですが、父の行き先は何と広島。そこで父は、姉である皆実の痕跡を辿り、彼女と縁のあった人を回って色々話を聞いていたのでした・・・。
「桜の国」はその他、七波の母親も被爆者で早く死んでしまったこと、弟の凪生と友人の東子が実は恋人同士だったことなども重要ですが、それはマンガを読むかこの映画を見ていただくこととして、やはり泣かされたのは、原作のラストシーンの七波の独白です(初めて読んだとき「こうの先生、ひどい、こんな泣かせに走りやがって」と八つ当たりしたくなったくらいです)。これもいわば「生まれてきたことの全面的な肯定」です。この作品を貫いているテーマはまさにこれだと思います。存在そのものへの祝福と言い換えても良いでしょう。凄絶な物語でありながら、ある種の明るさを感じるのは、このテーマが背骨として機能しているからでしょう。桜が咲き乱れる歩道橋でのラストシーンは是非各自でご覧ください。

というわけでとにかく、時間のある人はマンガと映画を、ない方は原作のマンガだけでもご覧になっていただきたいと思います。

追記:原作のマンガに関しての優れたレビューとして、野々村禎彦氏の紙屋研究所さんのを挙げておきます。

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Comments

引用されてるセリフ、凄いですよね。

特定の個人から個人への「私信」である感じに、まるで自分自身が問い詰められているかのように、思わずうろたえてしまいます。

映画は見てないので何とも言えないのですが、漫画では野球の存在がアクセントとして効いていて良かったです。

こんにちは。
とりあえず今は高校野球に熱中です(笑)。みなみ会館あたりでじっくり観れれば、というところですが。
ところでこうのさん、戦時中の軍港・呉を舞台にした新作に取り組んでいるようですね。

だいだいさん、僕は映画の後原作を再読して、その構成の巧みさに改めて驚きました。上記に挙げた以外にも、肺腑をえぐる台詞がありますしね。

虎哲さん、多分みなみ会館ではやらないので(あそこもつぶれては勿体ないところですが)、お早めにどうぞ。
こうの先生の新作、僕も知って入るんですが、単行本で一気に読みたいと思って雑誌の立ち読みは我慢しています。

私も先週観てきました。
原作はずっと前に読んだので、
記憶がおぼろげなところもありましたが、
引用部分のセリフは、覚えたから、
声をあげないように抑えるのが大変でした(TT)
それでもしばらく、泣き止まず。。。

帰りの電車で、パンフレットを読んでてまた泣いたり、
今も、こちらを読んでて思い出し泣き。。。

漫画の原作も、あとで読み返したいと思います。

とももさん、こんばんは。
とももさんも見に行かれたんですね。
僕の妻も泣いておりました。
僕もラストのシーンでは、判っていながら鼻の奥がツーンとなりましたが。

ちょっと不満を言うなら、原作にあったユーモラスなシーンをもっと取り上げて欲しかったなあ。例えばラブホテルから出て「七波ちゃん達足長いのねー、姉弟揃って」「凪生の話はもっと毒」(p.82)というシーンとか。

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